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研究プロジェクト

PROJECT

マラリア撲滅を目指した
文理融合研究

マラリアのない社会の持続を目指した
コミュニティ主導型統合的戦略のための分野融合研究プロジェクト

研究概要

研究背景

本研究プロジェクトは、今なお人類の喫緊の課題であるマラリアの撲滅に向けて、多分野融合研究によって個人・集団レベルの伝播メカニズムの解明と医学・経済学的介入のフィールド検証を進め、地域特性に基づくコミュニティ主導型の統合的マラリア撲滅戦略の構築を目指すものです。

我々は、アフリカの高度マラリア流行地"マラリア・ベルト"の東端に位置するケニア・ヴィクトリア湖周辺地域で2012年から継続的にマラリア調査を行い、持続する伝播の背景に3つの問題を見出しました。

  1. 無症候性感染:流行地においては、頻回のマラリア感染により免疫を獲得し、感染していても症状が現れない隠された感染者が、成人を中心に多く存在します。こうした感染者は症状がないために医療機関を受診してマラリアの検査を受けることもなく、検査を受けても原虫感染が低く抑えられているために、診断治療に結び付きません。そのため、無症候性感染者は無自覚のまま感染源となり、免疫が未熟な子どもに重症マラリアをもたらしています。
  2. 住民行動上の課題:蚊帳の不適切な使用に代表されるように、住民がマラリア制圧に向けて適切な行動を選択しないことは古くからマラリア対策の大きな課題とされています。その背景には、感染予防や早期診断治療に関する適切な知識の不足だけでなく、長期的なマラリア感染によるコストと短期的なマラリア予防、治療希求行動のコストの課題があると考えます。
  3. 殺虫剤抵抗性媒介蚊:マラリア原虫が抗マラリア薬に対する抵抗性を獲得していると同時に、媒介蚊であるAnopheles属の蚊も、主に殺虫剤処理蚊帳に用いられる殺虫剤に対して抵抗性を獲得していることが報告されています。
マラリアベルト
研究背景

内容

現地での観察、調査から見出された課題に基づき、次の4つの方針を中心に活動を考えています。

  1. 早期診断・治療の最適化:マラリアの新規診断法の開発、対象地住民のマラリア治療関連遺伝子・マラリア重症化関連遺伝子多型解析、さらに地域公衆衛生体制の強化を通じて、住民の早期診断・治療につながる知見を創出します。
  2. 住民の行動変容:マラリアの予防・治療に関する知識やコスト認識の啓発に加えて、行動経済学の理論を用いて住民のマラリア予防行動を促す制度を導入し、フィールド実証試験によってその効果を検証します。
  3. 新規媒介蚊対策:住友化学と長崎大学との共同研究により、現地の家屋の天井屋根と壁の間の開口部を蚊帳素材で覆う天井式蚊帳の有効性を検証します。さらに殺虫剤抵抗性媒介蚊にも有用な蚊帳素材を用いることで、より高い伝播抑制効果を期待します。
  4. モニタリング:分子疫学、遺伝学、血清学、媒介昆虫学、社会経済学といった多角的視点でマラリア感染と発症をモニタリング、同時に無症候性の感染や伝播強度の不均一性の本態を明らかにするとともに、上記の新規介入策の評価を行います。

研究対象地にはマラリア撲滅センターを立ち上げ、多国間研究者の交流、技能移管を促進し、現地研究者・コミュニティの主導による持続可能な対策戦略を構築します。

天井式蚊帳
研究概要

期待される成果、社会的意義

  • 分野融合研究による新たなコミュニティ主導型のマラリア対策戦略を確立、その展開によって対象地のマラリア流行の縮小を目指します。その成果は熱帯アフリカの"マラリア・ベルト"に広域展開され、貧困とマラリアの悪循環解消へと貢献することが期待されます。
  • 個人、集団レベルでのマラリア伝播および発症メカニズムについての知見が蓄積され、マラリア撲滅に向けたさらなる対策法の開発につながることが期待されます。また、研究者交流から現地研究者のキャパシティー・デベロップメントを進めます。

【At Mount Kenya University with Prof. SW Waudo, Vice Chancellor (center)】

島嶼におけるマラリア根絶

島嶼マラリア撲滅:バヌアツにおける三日熱マラリアに対する
住民主導による統合的戦略の開発

概要

今般、地球規模マラリア根絶は、再び人類の優先課題となった。その脈絡において、サハラ以南アフリカでは熱帯熱マラリアにより多くの5歳未満小児が命を落とすことが、その外では三日熱マラリア原虫の撲滅が最大の障壁となっている。後者には南西太平洋の68の島からなるバヌアツが含まれる。三日熱マラリア原虫は媒介蚊による感染後、肝臓で休眠体として長期間残存し再発を起こす。このステージを検出する方法はない。また既存の治療薬は、この寄生虫を排除するのに十分な効果を発揮しない。我々は1987年から継続するバヌアツ島嶼における介入研究から、現地マラリア撲滅プログラムの問題点として、既存の診断法の感度の低さ、不十分な住民意識・コミュニティ参加、抗マラリア治療最適化の必要性を見出した。 バヌアツは国家目標として、2025年までに列島全体で持続可能なマラリア撲滅を掲げる。本研究はその目標達成を支援し、以下の活動を提案する:

  1. 行動経済学理論を適用して、住民の適切なマラリア予防・早期治療行動を促し、さらにコミュニティ主導でマラリア撲滅が達成されていく仕組みを作る。
  2. 無症候の低密度感染をも検出するPCR検査に基づくマラリア監視システムをサポートおよびスケールアップしたうえで、PCRベースの診断結果を既存のDistrict Health Information System に統合し、マラリア症例サーベイランスを強化する。
  3. 三日熱マラリア原虫に対する根治的治療としてのプリマキン使用を広範に普及させるために、その代謝酵素CYP2D6多型と治療効果および副作用の関係を明らかにする。

学際的なアプローチとしての社会科学と医学を取り入れた分野融合プロジェクトは、バヌアツのマラリア撲滅に向けた統合された新たな国家戦略を構築する。さらに、その成果が太平洋および東南アジアの島嶼国におけるマラリア撲滅のモデルとなることで広域の社旗実装が達成される。

バヌアツのマラリア

バヌアツの東南端には、バクストン線が通り、これは媒介蚊としてのハマダラカ属蚊すなわちマラリア伝播の太平洋における分布限界を形成する(Figure 1)。約20万年前にアフリカに出現した人類とマラリア原虫が約3500年前までにバヌアツに到達・定住して以来、当地のマラリア伝播は継続してきたと考えられる[Kaneko et al. 1998]。歴史的に、熱帯熱マラリアと三日熱マラリア原虫の両方が、媒介蚊がいないフツナ島を除くすべての島で流行していた。熱帯熱マラリア発症率は降雨量に伴い季節的に変動しで、2月から4月にピークに達した。三日熱マラリア発症率は年間を通じてより均一であり、肝休眠体からの再発を反映すると考えられた。マラリア流行は、南部の島々よりも北部の島々で高い[Kaneko et al. 1998]。

1991年にはバヌアツ最南端のアネイチウム島において、統合的パッケージによるマラリア撲滅可能性の検証が開始された。現在までに至るその後の継続調査により、移動が制限される島嶼のマラリアは短期の管理された集団投薬と持続的な媒介蚊対策により、住民の高い意識と参加があれば撲滅されることが示された(Kaneko et al. 2000)。今世紀に入ってから薬剤処理蚊帳、診断・治療薬等マラリア対策ツールのスケールアップがバヌアツ全体で進んだ結果、マラリア流行は顕著に抑制されてきている。年間人口1000人あたりの確診されたマラリア発症数として定義されるAnnual Parasite Incidence(API)は、2000年以前多くの島で100を超えていたが、2010年には36.5、2018年には2.2まで減少している。API低下に伴い、発症例に三日熱マラリアが占める割合が2018年には74%と優勢にシフトした[WHO2019]。

バヌアツは、2025年までに群島全体のマラリア撲滅達成を国家目標に掲げる。そのアプローチとして、南端のTafea群島および北端のTorba群島から中央部および北部の島々へ段階的にマラリア伝播制圧を拡げていく戦略があげられている(Figure 1)。現に2017年には、過去3年間の土着マラリア発症者ゼロを達成したTafeaのmalaria-freeが宣言されている。Torbaもその達成が近い。現在、報告されるマラリア発症例のほとんどが、SanmaとMalampaの2群島に集中する[WHO2019]。

2002年以来、我々はバヌアツの12島38村落で横断的マラリア感染率調査を実施してきた。 総計27,000を超える検査のうち、346(1.3%)が顕微鏡検査で陽性であり、1656(6.2%)がPCR陽性であった。特にPanamaに属する アンバエ島では(Figure 1)、2002年から2014年の間にマラリア原虫感染率を推定するために6回の調査が実施された。原虫感染は、調査現場で顕微鏡によって検査された後、濾紙上の乾燥血液スポットを使用した実験室でのPCRによって検査された。顕微鏡検査とPCRの両方で、上述の保健医療機関で観察されたマラリア患者発生率の減少傾向と一致して、感染率の全体的な減少が示された(Figure 2)。 検出方法による比較では、全体的な感染率が減少するにつれて、低密度感染(PCR陽性だが顕微鏡検査陰性)の割合が2002年の70.1%から2011年と2014年の100%に増加したことが示された。またこれら低密度感染のほとんどは無症候性であった。

直近である2014年以降のバヌアツ6群島にまたがる11島での感染率調査では、顕微鏡検査では検出できない低密度の三日熱マラリア原虫感染の優勢が確認されており、残存感染ホットスポットを正確に特定するために分子診断を採用することの重要性が強調される。この調査では、南部のTafea群島ではPCRにおいても全くマラリア感染が検出されず、マラリア撲滅が持続的に維持されていることが確認された。さらに北部の群島における三日熱マラリア原虫の感染率は均一ではなく、マエウォ島(2015)、サント島(2017)、マラクラ島(2017年と2018年)で高い感染率が見出されている。

Figure 2: アンバエ島における種特異的
マラリア感染率の推移, 2002-14.

出方法による比較では、全体的な感染率が減少するにつれて、低密度感染(PCR陽性だが顕微鏡検査陰性)の割合が2002年の70.1%から2011年と2014年の100%に増加したことが示された。またこれら低密度感染のほとんどは無症候性であった。

直近である2014年以降のバヌアツ6群島にまたがる11島での感染率調査では、顕微鏡検査では検出できない低密度の三日熱マラリア原虫感染の優勢が確認されており、残存感染ホットスポットを正確に特定するために分子診断を採用することの重要性が強調される。この調査では、南部のTafea群島ではPCRにおいても全くマラリア感染が検出されず、マラリア撲滅が持続的に維持されていることが確認された。さらに北部の群島における三日熱マラリア原虫の感染率は均一ではなく、マエウォ島(2015)、サント島(2017)、マラクラ島(2017年と2018年)で高い感染率が見出されている。

チャレンジ

バヌアツではマラリア発生率低下にともない、残存ホットスポットの検出・排除および外部からの原虫再導入阻止が喫緊の課題であり、そのための有効なサーベイランスと確認された発症例への迅速な対応が求められている。感染リスクのある100人あたり年間に実施されるマラリア検査数で定義される年間血液検査率(ABER)は、最低10%を維持することが推奨されるが、その達成には発症率低下の状況で住民の高い意識が必要である。

迅速診断テスト(RDT)は、今日のバヌアツにおけるマラリアの主な診断法である。 RDTは、ニトロセルロースストリップでの抗原抗体反応によってマラリア原虫抗原の存在を検出するものだが、低密度の三日熱マラリア原虫感染検出のためにはより感度の高い診断法が必須である。我々は2019年から現地保健省との協力により、ポートビラ中央病院にPCR導入と必要な人材確保を開始している(写真)。
プリマキンは、2007年からバヌアツで三日熱マラリア原虫の抗休眠体剤としての使用が承認されている。その副作用として稀ではあるが血管内溶血を誘発する危険のあるG6PD欠損症への懸念から保健医療現場において、その使用が進んでいない。さらに、14日間の長い投与期間は、直接観察下でないとプリマキン治療を完了する人がほとんどいないことを意味し、その結果三日熱マラリア原虫感染が持続し、再発のリスクが高まる。

肝チトクロームP450のアイソザイムであるCYP2D6活性はプリマキン代謝に重要である。CYP2D6の遺伝子型および表現型の多様性とプリマキン治療の関係を調べた最近の研究はあるが[Baird et al. 2018; Brasil et al. 2018; Chen et al. 2019; Pett et al. 2019; Spring et al. 2019] 太平洋島嶼人類のCYP2D6の遺伝的多様性と抗休眠体剤としてのプリマキンの有効性および副作用への影響は知られていない [Gutiérrez Rico et al. 2020].

プリマキンは、2007年からバヌアツで三日熱マラリア原虫の抗休眠体剤としての使用が承認されている。その副作用として稀ではあるが血管内溶血を誘発する危険のあるG6PD欠損症への懸念から保健医療現場において、その使用が進んでいない。さらに、14日間の長い投与期間は、直接観察下でないとプリマキン治療を完了する人がほとんどいないことを意味し、その結果三日熱マラリア原虫感染が持続し、再発のリスクが高まる。

肝チトクロームP450のアイソザイムであるCYP2D6活性はプリマキン代謝に重要である。CYP2D6の遺伝子型および表現型の多様性とプリマキン治療の関係を調べた最近の研究はあるが[Baird et al. 2018; Brasil et al. 2018; Chen et al. 2019; Pett et al. 2019; Spring et al. 2019] 太平洋島嶼人類のCYP2D6の遺伝的多様性と抗休眠体剤としてのプリマキンの有効性および副作用への影響は知られていない [Gutiérrez Rico et al. 2020].

現在のマラリア対策プログラムでは、対策ツールが無料で提供されれば、人々はそれを最大限に有効活用すると想定している。 しかし、特にバヌアツのようにマラリア発生率が低下した場合、この仮定は崩れる。 蚊帳使用(写真)や早期診断・治療を求める動機とともに、マラリアのコスト認識が変化している可能性がある。 無症候性感染、獲得免疫、知識の低さ、個々の行動の正の外部性、極度の貧困などの医学的および行動経済学的要因の複雑な相互作用を考慮する必要がある。この不適切な住民行動に対して本研究では「行動経済学」の理論を活用し、知識啓発や予防対策・早期治療に関するインセンティブスキーム(具体的には、マラリアに感染しないことに対する報奨制度)の導入等、住民の行動変容を促す仕組みを検証し、対象地における統合戦略によるマラリア制圧に挑戦する。

意義

バヌアツは南西太平洋の小さな島国であるが、次の5年間での全国的なマラリア撲滅達成は、フィリピン、インドネシア、パプアニューギニア(PNG)、ソロモン諸島など、東南アジアとメラネシアの三日熱マラリア撲滅問題を共有する島嶼国にとって、画期的な成果となりうる。ニューギニア(PNG、パプア、インドネシアの西パプア州)は、アフリカ以外の唯一の高度マラリア流行地域である。

日常的な症例サーベイランスにPCRなどのより感度の高い検出方法を組み込むことにより、無症候性感染者を含めたマラリア撲滅の進捗をより正確に評価できる。プリマキン使用の最適化は、休眠体保有者を減らすことによって三日熱マラリア原虫排除を加速する。さらに本学際研究は医学と行動経済学を融合した現地へのアプローチにより人間の行動に特に焦点を当てた革新的統合システムを開発する。本研究の成果は、バヌアツに留まらない革新的三日熱マラリア撲滅戦略として、地球規模で社会実装されると確信する。

新興・再興感染症制御に向けた
橋渡し研究

シャーガス病制圧のための
研究開発

シャーガス病制圧のための研究開発

研究概要

クルーズトリパノソーマ原虫感染を原因とし、中南米で流行するシャーガス病には、症状の発現様式に明確な国間差、地域差が存在する。中米には慢性心筋炎、拡張型心筋症、致死性不整脈など心臓疾患が好発する地域が多くみられるが、南米では巨大食道症、巨大結腸症など消化器疾患が主体である。多くの場合、感染の成立から30~40年余の経過を経た遠隔期に臓器障害が明らかになるが、その病態形成機構や、原虫の臓器指向性のメカニズムの詳細は明らかになっていない。

どういった特徴を持つ感染者が慢性期臓器障害に進展するのか、リスク要因について知見は乏しく、病態の解明が待たれる。さらに既存の治療薬2種類は、その有効性が限定的でありばかりか、副作用も頻発するなど多くの課題を抱えており、新規治療薬の開発が必要とされている。

本プロジェクトでは、エルサルバドル教育省科学技術研究センターとの研究協力体制により、

  • 分子遺伝学的アプローチによる、原虫病原因子の解析、
  • in vitroおよびin vivo疾患モデルの作成、
  • 新規治療薬の合成・開発、に取り組む。

なお本研究課題は、2017年度より地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)に採択され、支援を受けている。SATREPSは国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)がそれぞれ独立行政法人国際協力機構(JICA)と連携して実施しているもので、科学技術と外交を連携し、相互に発展させる「科学技術外交」の一環として、地球温暖化や生物資源、防災、感染症といった地球規模の課題解決を目指すプログラムである。

期待される成果

病態形成に関わる病原因子が明らかになることで、シャーガス病の理解が進み、臨床応用へ向けた橋渡しが可能となる。日本発治療薬シーズの研究開発プロジェクトは、若手研究者の育成、そして流行国におけるシャーガス病制御に資することが期待される。

共同研究機関

相手国機関:教育省科学技術研究センター、エルサルバドル大学、ホセマチアスデルガド大学、国立ロザレス病院
国内機関:群馬大学(主任研究機関)、東京大学、慶應義塾大学、高崎健康福祉大学、自治医科大学

リンク

新型コロナウィルス感染症
研究開発コンソーシアム

新型コロナウィルス感染症研究開発コンソーシアム

研究概要

我々人類は、新興感染症である新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の地球規模での感染爆発という公衆衛生上の危機に直面した。感染した患者とその家族が苦しむだけではなく、全地球の経済活動および文化活動が停滞し、社会への打撃ははかり知れない。未知のウィルスSARS-CoV-2の克服へ向けた一助となるべく、我々は、COVID-19血清学的診断法の確立と血清動態から迫るCOVID-19病態解明を目的とした研究プロジェクトを開始した。

ヒトがウイルスに感染した時に産生される抗体の種類、質および量が、経時的にどのように変化するかを理解することは、ウイルス感染症の診断および治療に重要な役割を果たす。どのような種類の抗体が、COVID-19に対して防御的な役割を発揮するか(=中和抗体)についての知識は、患者の治癒判定に有用な情報となるだけでなく、さらに、中和抗体を豊富にもつ回復者から作られる血液製剤には、COVID-19を治癒に向かわせる、或いは重症化を防ぐ効果が期待される(=回復者血漿療法)。信頼性の高い抗体価測定法を確立し、抗体の質的・量的変化と臨床情報との関連性を明らかにすることによって、より効率的な診断・治療法選択、感染拡大防止策へ貢献できると我々は考えている。

米国Mokobio Biotechnology R&D社との共同研究により考案した技術が、蛍光粒子を利用したイムノクロマト法によるSARS-CoV-2抗体検査法、量子ドット蛍光免疫測定(Fluorescence Immunoassay; FIA)法である。微量血液で迅速に半定量測定が可能なpoint-of-care (POC) テストであり、操作の簡易化と、ポータブル蛍光計測器を利用したデジタル判定の導入により、検査者間の判定誤差を回避している。

全国の研究機関および医療機関とCOVID-19血清疫学研究コンソーシアム(全国20程度の医療機関との連携による研究ネットワーク)を結成し、本システムを利用した臨床研究を2020年4月より開始した。患者血清中のCOVID-19に特異的なIgM抗体およびIgG抗体の検出に成功し、さらに、より高精度の抗体測定法であるELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法を組み合わせた多角的検証により、上記の検査キットの信頼性を高めている。抗体の防御的な役割を検証するための実験系は、今後の医薬品開発にも資する重要な基盤技術である。

さらに同年6月、京都大学(iPS 細胞研究所・医学部附属病院)と共同研究のための契約を締結し、研究プロジェクトを推進している。新規医薬品開発のための探索研究、検査法(抗体検査、PCR・抗原検査)の拡充・最適化、疫学調査(下記リンク参照)を目的とした実証研究が行われている。

期待される成果

血清診断法の臨床的有用性を確立し、COVID-19に対する体外診断用医薬品としての承認を目指す。回復期に産生される抗体の機能を解析し、治療応用性を検討する。さらに、医療資源の乏しいアジア・中南米・アフリカの各国における感染症対策に貢献すべく、各国の感染症専門家と連携し、国際展開を推進する。

共同研究機関

国内機関:大阪府立大学、大分大学、愛知医科大学、慶應義塾大学、聖マリアンナ医科大学、大阪医科大学、帝京大学、東京大学医科学研究所附属病院、京都大学医学部附属病院、同iPS細胞研究所、国立国際医療研究センター、国立感染症研究所、VLP Therapeutics Japan
海外研究機関:コンゴ民主共和国国立生物医学研究所、エルサルバドル国立ロザレス病院

リンク

本学プレスリリース
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2020/200427

厚生労働省、抗体保有調査
https://www.mhlw.go.jp/content/000637285.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/000640287.pdf

大阪市立大学、全学対象PCR検査
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2020/200331-3

国立研究開発法人日本医療研究開発機構AMED
https://www.amed.go.jp/koubo/03/01/0301C_00059.html